夏の思い出

神経系

筆者は頭痛持ちで、ナロンエースとはお友達です。

ナロンエースの成分はエテンザミドとイブプロフェンでして、両方ともNSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬でしたね。シクロオキシゲナーゼ:COXを阻害して痛みの元物質であるプロスタグランディン類を発生させないようにするモノでした。

筆者の場合は、頭痛が出てもクスリを飲んで1時間ジ~っと我慢していればその内に収まってきますので、それ程の深刻さはありません。

ですが、世の中には「片頭痛」と言って強烈な頭痛に悩まされているヒトがいるようです1

実は、今回調べてみるまで頭痛の起こる場所が違うだけなんじゃない?位の認識しか無かったのですが、効くクスリもあまり無く、発症のメカニズムも良く判らないムツカシイ病気である事を知りました。

夏の思い出

夏の思い出と言えば、お盆を抜きに語れません。

夏の暑い時にお墓を掃除に行き、樺の樹皮を燃やしてモウモウと立ち込める煙を玄関で出してご先祖様を迎える訳です。

盆提灯を飾り、お供え物とお花をいっぱいにして仏壇を飾り、キュウリやナスに木の枝で4本の足をつけて馬に見立て、ご先祖様が乗って来られるように準備しました。

そう言えば馬の尻尾はススキの穂で作りましたね。筆者の地元のローカル色炸裂で申し訳有りません… でも、最近では環境破壊の抑制のために樺を焚けなくなったと聞きました。

皆でスイカを食べ、花火をします。学校の先生から『花火はお盆まで!』2ときつく言われているので、残った花火を全部です。

また、お盆の間は殺生を避けるので、捕まえた虫や蛇等は逃がしてあげなければなりません。もちろんカエルもです。

モロコシを食べ、カキ氷を食べ、ソバを食べ、夕方からの雷様で冷えてお腹を壊すのが定番でした。

そして、やっぱり樺で送り火を焚いて「来年ござれ~」と歌いながらご先祖様を送る時には、子供ゴコロにとてつもなく寂しくなった事を覚えています。

筆者の家ではカキ氷は贅沢品でして、お盆の最中位しか口に出来ませんでした。ですので、それが出てきた時にはスプーンにいっぱいにすくって貪るように食べるわけです。

するとどうなるか?

まだ残っているカキ氷を目の前にして「キ~ン」とジェット機が通過するような感覚が喉から脳天に突き抜けるわけです。声も出ません。

笑ったような泣いたようなおかしな顔をしながら、一刻も早く残りのカキ氷が食べられる様になるまでの数十秒をひたすらに耐え続けるのです。

夏のある時期だけに経験する強烈な思い出です。

あの感覚がとても懐かしくて、たま~にガリガリくんの一気食いをして思い出しています。これも結構きます。

三叉神経

あの「キ~ン」と言う感覚、ヒトの頭部にある神経が深く関与しています。

解剖学的に見てみると喉の後ろから頭蓋内にかけて、巨大な神経線維が認められます。

上顎神経、下顎神経、眼神経のそれぞれはそれなりに太い神経束なのですが、喉の後ろで3つが合流し、脳神経の中で最大の神経を形づくります。3つが交わるからコレを三叉神経:trigeminal nerve と呼んでいるのです。

喉の奥にありますので、例えばカキ氷を大量に食べた時などは、喉の三叉神経も直接冷やされてしまいます。

神経とは不思議なモノで、「冷たい」と言う刺激も度を越すと痛みとして感じてしまう場合があるのです。

今頃の季節ですと、渓流に出かけて長時間手をつけていると冷たさよりも痛みを感じてしまいますからなんとなく理解して戴けるでしょう。

だから、冷やされた三叉神経はカン違いの痛み刺激を、その太い神経線維を介して「脳幹」と言うトコロにある三叉神経核:trigeminal nucleus にダイレクトに伝えるのです。

コレがとんでもなく痛くて、脳の中で「キ~ン」なんですね。

片頭痛

片頭痛は頭の片側からこめかみにかけて脈打つように「ズキンズキン」、「ガンガン」と痛み、あまりの痛みに動く事もできずに寝込んでしまったり、吐き気を伴ったりするとてもつらい頭痛だそうです。

音や光に対して過敏になっているため、ちょっとした物音や窓からの光でも痛みが増したりする事もソノ特徴。でも、片頭痛の起こるメカニズムは、残念ながらまだ良く判っていません。

現在の所、三叉神経とソレを取り巻く血管の相互作用ではないかと言うのが、仮説として言われています。

その仮説では、痛みを引き起こす元々の場所は三叉神経。この三叉神経の興奮が炎症性の神経伝達物質を放出させるのが引き金になります。

「神経原性炎症」と言うのだそうです。

神経の炎症がひどくなるにつれて、ブラジキニンやサブスタンスP、等の痛み物質やセロトニンが分泌され、これらは近くの血管を拡張させます。また血管壁の網目構造も緩くなり、内容物が漏れやすくなります。これを血管透過性の亢進と言います。

血管が拡張すると、三叉神経を直接圧迫して心臓のドキドキと連動した痛みが「ズキンズキン」と中枢に伝えられます。

また、血漿タンパク質が血管外へ漏れやすくなる事で更に神経原性炎症を悪化させると言う負のスパイラルに陥るのです。

でも、最初の神経原性炎症がなぜ引き起こされるのか? と言うところまでは説明ができません。

そして、コノ仮説以外にも脱分極説/血管説/セロトニン説/神経説/統合理論 などが飛び交っており、発症の機序が明確になるのはもう少し先かなと言う印象です。

近年出てきたトリプタン類と呼ばれる片頭痛のおクスリ3は体内で枯渇してしまったセロトニンの代わりに血管の受容体を刺激して過剰な血管拡張が起きない様にする作用を持っています。ですので、血管拡張による三叉神経への刺激を抑える事ができます。

更に、三叉神経終末にある別のセロトニンレセプターにも作用して痛みの伝導そのものもブロックするというダブルの効果で片頭痛に対処できるのだと考えられています。

今のところ最も有効なクスリはトリプタン系のようですが、効かないヒトが居るのも事実。

おそらく、患者さんは「理屈はどうでも良いから早く効くクスリをよこせ!」と思っているでしょう。なかなかもどかしいです。


おまけ解説

  1. 偏頭痛とも書く
  2. どうして花火はお盆までなのかが未だに良く判らない
  3. トリプタンが出るまでは麦角アルカロイドが片頭痛の主要な経口治療薬だった。しかしながら中毒の問題のために今は人気がない
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