CD分類

免疫系

抗●●抗体というクスリ

昔はクスリと言えば、薬草を煎じたモノであるとか、アルコールに浸してエキスを取り出したモノであるとか、はたまた動物の臓器をすりつぶしたモノであるとかでした。

西洋科学によって様々な低分子化合物が純粋に作られ、取り出せる様になった現代では、化学合成だったり微生物発酵だったりの低分子化合物がクスリの主流になっています。

でも、更に、生命の作り出す様々な分子を上手く利用して、クスリとして開発してしまおうと言う流れが1990年代に入ってから活発になってきました。

DNAとかRNAのような核酸であったり、バイオテクノロジーの発達により人間の望む様に改造したタンパク質医薬品がその代表例です。

その中にはタンパク質医薬の一角をなし、大きな成功を収めている「抗体医薬」があります。1

抗体(イムノグロブリン:Ig)は高等生物の免疫システムを支える重要な分子であり、標的とする分子にとても強い親和性と高い選択性で結合します。

その親和性の強さは通常の低分子医薬品の10~100万倍にも達する場合があります。
そして狙った病気の原因となる分子にくっついて薬効を出すのでした。

抗体の名前は、「抗●●抗体」と言う風に「●●」の部分にくっつく標的の名前を入れる事によって性質を反映します。英語だと「Anti-●●antibody」。

現在、日本で承認されている抗体医薬としては次のような物があります。一部をご紹介。

一般名           抗体の名称                      製品名
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セツキシマブ     抗ヒトEGFRモノクローナル抗体    アービタックス
アダリムマブ     抗ヒトTNFαモノクローナル抗体    ヒュミラ
メポリズマブ     抗IL-5モノクローナル抗体        ヌーカラ
 ニボルマブ      抗ヒトPD-1モノクローナル抗体    オプジーボ
アベルマブ       抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体   バベンチオ
イピリムマブ     抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体  ヤーボイ
イネビリズマブ   抗CD19モノクローナル抗体製剤    ユプリズナ
リツキシマブ     抗CD20モノクローナル抗体        リツキサン
イサツキシマブ   抗CD38モノクローナル抗体        サークリサ
ダラツムマブ     抗CD38モノクローナル抗体        ダラザレックス
アレムツズマブ   抗CD52モノクローナル抗体        マブキャンパス

抗体医薬の走りとしては関節リウマチに用いるリツキサン:Rituxan が有名です。抗CD20抗体ですね。

これはBリンパ球の特異的な表面抗原CD20に結合する抗体を用い、Bリンパ球の機能を阻害し、過剰な免疫活性化で起こるリウマチなどの自己免疫疾患を治療する抗体医薬です。


こうして見ると、「●●」の部分に「CD+番号」の入った抗体分子があることに気付くでしょう。ただ、「CD+番号」って何ですか?と聞かれた時にちゃんと答えられるヒトはあまりたくさんはいません。

CDナントカって?

昔は、新しいタンパク質分子が見つかると、その分布を調べ、構造を調べ、抽出して生成して、複合体形成の相手を調べ、機能を調べ…、そしてその推定される機能から名前をつけたりして、さらなる研究のために抗体を作らせて、と言うようにのんびりとやっていたのです。

ところが、1970年代後半になってくると新しいタンパク質がドンドンと見つかるようになり、のんびりやっていると学会や論文発表に命名が追いつかなくなってきました。

特に、リンパ球や白血球などでは、骨髄にある幹細胞が分裂して成熟していく過程で多種のタンパク質が細胞表面に入れ替わり立代わり発現して来る事が判るようにり、免疫系の細胞を研究しているヒト達の間で大混乱が起きていたのです。

大体、分子の名前は最初に発見したヒトの特権で命名されます。ところが、研究のスピードが上がると、世界同時多発的に同じモノが発見されるわけです。そして同じモノに全然別の名前が付きます。

見つけた本人からすれば、『私が一番』と思っていますし、論文に発見の経緯と分子の命名が乗ることはとても名誉な事なのです。だから、自分の見つけた分子に他人が勝手に名前をつけようものならあまり面白くありません。

そこで大喧嘩を未然に食い止めるべく、白血球を研究しているヒト達の中で1982年からワークショップ2を作って、新しく見つけた分子に「CDナントカ」と付けようとなりました。

コレでかなり民主的。「CD」は「Cluster of Differentiation」又は、「cell differentiation : 細胞分化」の頭文字です。

コノCD名称という奴、対象とする分子の分布と構造が決まった順番で命名されてしまいます。すなわち、CD26と言うのは「HCDM ワークショップで26番目に構造と分布が決められた白血球表面の分子」となる訳です。

だから、その分子の構造とか機能とかサイズとかと名称は全く関係ありません。

2021年時点では、CD370くらいまで決定されている3ようですが、「名前の話」をしている立場から見る「とひたすらつまらない命名法だなー」と思うわけであります。

科学の発展スピードがとんでもなく早くなった結果の対応なんですけどね。

おまけ解説

  1. <サイエンスお父さんの家庭内生物学講義> 抗体医薬 https://ytoku-science.fun/127/ 見てね
  2. ヒト細胞分化抗原 human cell differentiation molecules (HCDM) の研究・分類ワークショップ
  3. ベックマン・コールターさんのWEBページ https://www.bc-cytometry.com/Data/cytoinfo/CDchart_des.html
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