アプガースコア

生殖系

医薬品の安全性情報入力のお仕事をしていると症例報告の中で「アプガースコア」なる単語を目にする事があります。

生まれてきた赤ちゃんの様子を表現するのに使う指標らしいのですが何をどう計るのかは知りませんでした。

調べてみたらこのスコアお産の現場でも簡単に計れて赤ちゃんの様子を示す指標として世界中で使われているのだと言う事が判りました。とっても役に立ってます。そしてその名前の由来も… (名前の話ですのでね)

計るのは5つの項目。それぞれに最低点が0点最高点が2点でして5つ全部が良好ならば満点の10点です。

簡単に言ってしまうと赤ちゃんの「活きの良さ」を示す数値1でして生まれて1分後に8~10点ならば正常。逆に7点以下ならば「仮死」です。

生まれてから5分後にもう一回計るのですがこの時の値が赤ちゃんの予後と密接に相関するのでケアの指標にしているのでした。

アプガースコア

アプガースコア。英語で書くと A-P-G-A-R SCORE です。

この言葉は測定する5つの項目の頭文字から出来ています。出てくる順番に見てみましょう。

A:まずは赤ちゃんの様子特に皮膚の色を観察します。Appearance です。要するに「見た目」の事ですね。

全身がピンク色であれば2点。でも酸素不足で皮膚の色が青紫色に見える「チアノーゼ:cyanosis」と言う状態が全身に及んでいれば0点。体の一部だけならば1点です。

血液の色素であるヘモグロビンは酸素と結合すると鮮やかな赤い色になりますが何らかの理由で酸素が足りない場合には暗赤色をしています。酸素が足りない赤血球が流れている時皮膚の表面が青紫色に見える状態がチアノーゼです。

P:次に心臓の働き心拍数を計ります。Pulse パルス。

成人だと平常時の心拍数は概ね50~80 bpm2位なのですが赤ちゃんの心拍数はそれよりとっても高いのが普通です。

なので100 bpm以上なら2点。100 bpmに満たないと1点そして心臓が動いてないと0点です。5項目の中では唯一の客観的指標です。

お次はG:ちょっとムツカシイ単語でして刺激に対する反応。Grimace 元々の単語の意味は 「しかめっ面」

赤ちゃんは刺激に対して強く泣くのが普通です。ちょっと小突いてやった時には手を動かしてイヤイヤしたり咳やくしゃみをしたりもします。

こうした反応が見られれば2点。顔をしかめる程度だと1点。反応が無い場合は0点です。

さて次にもう一回 A:筋の緊張度です。Activity

四肢を屈曲すると2点。軽く曲げる程度だと1点。だら~んとしていれば0点です。

赤ちゃんと言うのは大抵の場合手足を縮めてまるっこくなって寝ていますね。ビロ~ンと「大の字」で寝ている姿はあまり見かける事はありません。そう言う事です3

最後にR:呼吸の事でRespiration

十分な自発呼吸が認められれば2点。不十分だと1点。もし自発呼吸が無ければ0点です。

呼吸と書いてはいますが、赤ちゃんにとっての生まれて初めての呼吸は「大泣きする事」です4。元気な赤ちゃんほどよく泣きます。

この5つの項目どれか一つでも0点だったら結構大変な状態だと言う事が判ります。5項目全部足しても0~3点だったら「重症仮死」として濃厚なケアが直ぐに必要なのです。
生まれたばかりの時のアプガースコアが0~3点だった場合、5分以内に蘇生しないと後遺症の残る可能性がとても高くなります。そして5分後のアプガースコアがもしも3点以下で重症だった場合、死亡率は30%にもなってしまうのです5

アプガー先生

このアプガースコアを使い始めて広めたのはアメリカの産科医/麻酔科医であった ヴァージニア・アプガー先生です6
「うそ~」と言う声が聞こえて来そうですが本当の話。

要は自分の名前に引っ掛けて命名しました。アプガー先生の作った「アプガースコア」です。

冒頭のFig.には先生が赤ちゃんの筋緊張の様子を観察している風景を載せました。

こんな感じで赤ちゃん関連ですと面白い名前の検査が他にもイロイロありますのでちょっとだけご紹介。

足の裏をコチョコチョすると足の指が開く「バビンスキー反射」とか首のすわらない時期に頭をちょっと持ち上げた後に「フッ」と3~4センチ落とすと手足を前に突っ張ってプルプル震える「モロー反射」とか…

ヒトの名前は付いていませんが指を手のひらにちょんとくっつけると赤ちゃんが「ぎゅ~」っと握り返してくる「把握反射」。

更に口に指を持って行くとえらい勢いで「ヂュ~」っと吸う「吸啜反射」7なんてのも有名。

うちの子達で全て確認しました。面白いので是非お試しください。ヒトんちの赤ちゃんにいきなり試すと親に睨まれますので、試すならご自分のコドモでどうぞ。生まれてから数ヶ月の内がチャンスです。

さてお気付きのようにAPGARスコアというのは観察するヒトの主観に頼るところがとても大きいです。唯一の客観的な測定項目は心拍数の「P」だけですから。

そこで現代のお産では新生児仮死の状態を計る客観的な指標として臍帯血8のpHも用いられるようになりました。

生まれてくるときに赤ちゃんが酸欠で苦しんだ時間が長ければ長いほど臍帯血のpHはどんどん下がって行くのだと言うのがその理由です。

アプガースコアの他にこうした指標を取り入れる産院が増えて来ましたのでその内に報告されてくる症例の中でもお目にかかるでしょう。きっと…

でも名前にインパクトがあって覚え易い。そして簡便に測れてとても便利な指標であるアプガースコアは50年以上経った現在でもまだまだ広く使われているのでよ~く見かけるのです。


おまけ解説

  1. 「活きの良さ」⇒ 魚のようだな…
  2. bpm と言うのは、beat per minutes つまり、1分間に何回ドッキンしたかで計る。日本語だと「回/分」
  3. 何が「そう言う事」なのか?
  4. 筆者の家庭の事情で恐縮だが、筆者の子供達は生まれた時に病院中に響き渡るような大声で泣いていた。アレだけでAPGARスコアに10点をあげたいくらいであった。3人ともである。いつ見舞いに行っても大声で泣いていたので廻りに迷惑であった
  5. 8点以上なら正常
    4~7点で正常仮死
    0~3点が重症仮死
  6. Virginia Apgar (1909-1974), US physician, using a stethoscope to assess the health of a newborn baby on 2nd October 1966.
    Apgar graduated from Mount Holyoke College, Massachusetts, USA, in 1929, and Columbia University, New York, USA, in 1933.
    She specialised in anaesthesia and childbirth.
    She is famous for introducing the Apgar Score in 1953.
    This is a test used to assess the heath of babies when they are born.They are assessed on heart rate, respiration, muscle tone, skin colour, and reflex irritability.
  7. 吸啜反射:きゅうてつはんしゃ と読む
  8. 臍帯血:へその緒から取れる血の事。その中には造血幹細胞が含まれているので骨髄移植に使われたりもする
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